ダルディークは城に残っていた光軍の兵士から、フェルナスの居所を聞き出した。
フェルナスは、元レドラル城、現在はダルディークの居城になっていたその城に居るという事だった。
ダルディークはレドラルへ向けて馬を走らせた。
途中、何個もの光軍部隊に出会ったが、それを蹴散らしレドラルだけを目指した。
ダルディークに突破された光軍部隊は、次々にダルディークの追撃を始めた。
レドラルへ向かうダルディークを追う光軍は、いつしか数千の大部隊となっていた。
ダルディーク「後ろの奴らは大した事ないが、レドラルの本隊と挟まれたら厄介な事になるな」
すると、雷龍の騎士ラーディスが突然馬を止めた。
ラーディス「ダルディーク様! ここは私に御任せ下さい!」
ザーシュ「ラーディス!」
ラーディス「なーにあんな雑魚ども、俺様一人で十分ですよ!」
ダルディーク「……頼んだぞ、ラーディス」
ダルディークは、ラーディスを残し、さらにレドラルへと馬を走らせた。
ラーディスによって追撃部隊を引き離したダルディークは、ついに元レドラル城である、我が居城にたどり着いた。
城には光軍の旗が幾つもはためいており、ダルディークたちはそれを苦々しく見つめた。
ダルディーク「フェルナス……今度こそ殺す」
ダルディークたちは吊り天井の仕掛がある廊下にたどり着いた。
この廊下に侵入者が入ると、天井の巨大な石の爪が降って来る仕掛である。
ザーシュ「ダルディーク様! 安全装置が破壊されています」
ダルディーク「なに?」
ザーシュ「これでは、誰かがここでハンドルを抑えていないと、ここは通れません」
ダルディーク「まさか、自分の仕掛けた罠に苦労させられるとはな」
ザーシュ「私が抑えています。ダルディーク様は、早くフェルナスの元へ」
ダルディーク「分かった」
ルーラ「ザーシュ…………」
ザーシュ「ルーラ、ダルディーク様を頼むぞ」
ルーラ「分かったわ」
ダルディーク「行くぞ、ルーラ!」
ダルディークとルーラが吊り天井の廊下を走って行った。
自分の腕一本で支えている吊り天井の下を、何のためらいも無く通るダルディークを見て、ザーシュは熱いものを感じた。
光軍兵士「いたぞ! あそこだ!」
ザーシュ「クッ! 見つかったか」
ハンドルを支える黒龍ザーシュに、十数人の光軍兵士が取り囲んだ。
ザーシュ「おのれぇ……いま放すわけにはいかんのだ、いま放すわけには……」
光軍兵士「仲間が通りきるまでハンドルを抑える気だぞ!」
ザーシュ「絶対にこの手は放さん!」
光軍兵士「ハンドルの腕を狙え! とにかくハンドルから手を放させるのだ!」
光軍の兵士たちは、ザーシュに次々と切りかかる。しかし、片腕といってもザーシュは強すぎた。
見る間に光軍兵士は半分に減っていた。
光軍兵士「ええーい! ひるむな! 一斉に切りかかれ!」
光軍兵士の数にものを言わせた集中攻撃をくらい、とうとうザーシュの左腕からハンドルが外れた。
ザーシュ「おのれぇぇぇぇぇぇぇ!」
とっさにザーシュは回転する歯車に左腕を挟み込んだ!
ザーシュ「グゥウゥ…………」
光軍兵士「な、なんて奴だ!」
ザーシュ「フフフフ、どうした貴様ら? まさか片腕しか使えない男を恐がっているのか?」
光軍兵士「ウウゥ…………ええーい! ひるむな!! 奴は身動きがとれん! 今がチャンスだ!!」
ザーシュ「来るなら、死ぬ気でかかって来い。さもなくば…………死ぬぞ」
光軍兵士「ウクゥ…………い、行けぇ!!」
ダルディークたちが廊下を渡りきるのを待っていたかの様に、吊り天井が地響きをたてて下に落下した。
ルーラ「ザ、ザーシュ…………」
ダルディーク「行くぞ、ルーラ」
ルーラ「はい!」
ダルディークとルーラは、光軍の激しい抵抗を排除し、ようやく王の間にたどり着いたのだった。
フェルナス「ダ、ダルディーク!」
ダルディーク「迎えに来たぞ。地獄へのな」
フェルナス「おのれぇ、今度こそ止めを刺してやる!」
ダルディーク「いままでの借りは全て返す。貴様の死によってな!」
フェルナス「黙れ! もう一度封印してくれる!」
フェルナスはラームの鏡を構える。すると鏡から、また、まばゆい光が溢れ出す。
フェルナス「永遠に亜空間をさまよい続けろ、ダルディーク!!」
ダルディーク「ウヌゥ!!」
と、その時、ラームの鏡がフェルナスの手から弾けた。
フェルナス「な、なにぃ!?」
ダルディーク「この矢は……」
ラームの鏡を貫いたのは、一本の矢だった。
そう、その矢の持ち主は…………
ダルディーク「アーリア!」
ダルディークは思わずそう叫び、振り向いた。
そこには、確かにアーリアが立っていた。
しかし、それは幻影の様に透き通る実体の無いものであった。
ルーラ「アーリア…………」
アーリアはルーラに微笑むと、ダルディークに向き直った。
アーリア「ダルディーク様、世界をその手に……」
ダルディーク「約束しよう」
アーリアは満面の笑みを浮かべると、静かに消えていった。
フェルナス「こうなったら、この光の剣で、貴様を地獄に送ってやる」
ダルディーク「………………」
フェルナス「行くぞ!」
ダルディーク「フェルナス! …………貴様、死ね!!」
フェルナスとダルディーク、最後の戦いがいま始まった。
フェルナス「みんなは炎龍を見張れ! 手出しをさせるな!!」
フェルナスの部下「はい!」
ダルディーク「ルーラ! 雑魚は任した!!」
ルーラ「おまかせを!」
ダルディーク「また一段と力をつけたな、フェルナス」
フェルナス「貴様を倒すためにな」
ダルディーク「フフ、どうだフェルナス。私と組まぬか?」
フェルナス「なにぃ?」
ダルディーク「貴様の力を私に貸せ。共に真の平和な世界を築こうではないか」
フェルナス「ふざけるな! 貴様が平和だったこの島を、戦乱の渦に巻き込んだのではないか!! それを真の平和だと!? ふざけるな!」
ダルディーク「それは違うぞフェルナス。この島には、真の平和など元々無かったのだ」
フェルナス「なに寝言を言っている!」
ダルディーク「貴様こそ目覚めろ。人間が主導権を握る限り、真の平和は訪れないのだ」
フェルナス「違う! 人間は人を愛し、そして平和を愛するんだ。そんな人間だからこそ、真の平和を築けるのだ!」
ダルディーク「フン! 人間は己に無いものを求めるものだ。愛だの平和だのと軽々しく口にするのが、そのいい証拠だ」
フェルナス「なにぃ!」
ダルディーク「現に歴史が語っている。人は人と争い、そして自然をも破壊している」
ダルディーク「そんな人間どもに、果たして真の平和など創れるかな?」
フェルナス「創れる! いまはダメかもしれない……しかし、いつか人はその事に気付く時が来る。そう、人は変われる!」
ダルディーク「貴様らが変われる時間など、誰が与えると言った! それこそ人間のエゴと言うものだ」
フェルナス「違う! 人間の優しさや愛は、そんなものじゃない!」
ダルディーク「愛だと? フン! その愛するという行為の結果、貴様は何を得た? 姉を失い、そして愛する者までも失ったではないか」
フェルナス「………………」
ダルディーク「愛する者一人守れずに、何が愛だ! 貴様の幻想を聞いていると、片腹痛いわ!」
フェルナス「黙れ! 貴様さえ現れなければ、何も失わずに済んだのだ! それを貴様が、闇が壊したのだ!!」
ダルディーク「……どうやら貴様も、所詮はバカな人間と同じだったな」
フェルナス「そうだ! 俺は人間だ! だから人として、貴様を倒す!!」
ダルディーク「フン! ブタの様に死ね、フェルナス!!」
フェルナス「ぬおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
ダルディーク「ぐぅおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
(フェルナスと戦闘→勝利)
ダルディーク「…………ムッ?」
フェルナスに止めを刺そうとしたその瞬間、ダルディークの身体が金縛りにあった。
サラ「フェルナス、いまです」
ファーナ「いまよ、フェルナス!!」
どこからか大神官サラとファーナの声が響いてくる。
ダルディーク「おのれぇ、亡者どもめ!」
フェルナス「もらったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
その隙をついて、フェルナスがダルディークの懐へ飛び込んだ。
ダルディーク「ウオォォォォォォッ!」
フェルナス「や、やった!」
フェルナスの光の剣が、暗黒のよろいを突き破り、ダルディークの胸に深々と突き刺さった。
ダルディーク「ぐぅわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ダルディークの絶叫が、部屋の中に反響する。
フェルナス「なにぃっ!?」
しかし、その絶叫は、すぐに笑い声へと変わっていった。
ダルディーク「ダァーハッハッハッハッハッハッ!」
ダルディーク「かゆい! かゆいぞ! そんな攻撃、蚊に刺された程度だわ!」
フェルナス「そ、そんなバカな……」
ダルディーク「ハッハァー! 貴様がラームの鏡なんぞに頼った理由が、いま分かったわ! 光の剣は、死んでいる! 昔の力はもうない!!」
フェルナス「ヌヌゥゥッ!」
ダルディーク「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ! フェルナァァァァァァァァァァァァァァァァス!!」
フェルナス「させるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
どれくらいの時がたっただろうか……。
長く冷たい静寂が、辺りを包んでいた。
最初に気が付いたのは炎龍の騎士ルーラだった。
気が付くとルーラは、城の外に倒れていた。
あの瞬間、もの凄い力に吹き飛ばされ、城の外まで飛んでいたのだった。
ルーラは身体中の痛みに耐え、城に入る。途中、倒れていた黒龍の騎士ザーシュを抱え上げたが、生きているかどうか確認はしなかった。
ルーラは、とにかくあの部屋へ行きたかった。あの人のいる、あの部屋へ……。
部屋に入って最初に目についたのは、フェルナスの顔だった。
その表情は眠っている様にも見え、また微笑んでいる様にも見えた。
ルーラは思った。なんと無心な表情なのだろうか、と……。
しかし、その胸には、暗黒の剣が深々と突き刺さっていた。
ルーラ「ダ、ダルディーク様は!?」
ザーシュ「だ……だい……じょうぶ……だ」
気が付くと黒龍の騎士ザーシュが、起き上がろうとしていた。
しかし、その左腕はまったく動かず、一人で立っている事も出来なかった。
ルーラ「ザ、ザーシュ、大丈夫?」
ザーシュ「ああ、私は大丈夫だ。それより、ほら……あそこに…………」
ルーラはザーシュの視線の先を追った。そこには…………
その瓦礫の山の影から、ダルディークが姿を現した。
ルーラ「ダルディーク様!」
暗黒の剣はフェルナスの胸から、本来あるべき主人の元へと自ら戻ってきた。
ダルディークはその剣を拾い、それでようやく身体を支えているようだった。
しかし、その瞳は輝き、顔には笑みがこぼれる。
ダルディーク「フフ、フハ……ハハハハハハ……」
ダルディークはただ笑っていた。しかし、その表情は何か大きなものを成し遂げた、達成感に満ち溢れていた。
ダルディーク「ザーシュ……ルーラよ。ラーディスを迎えに行くぞ」
ルーラ「は、はい!」
数千の敵を一人で防いだその男は、数十本の矢を身体中に浴び、それでも仁王立ちしていた。
ルーラ「ラ、ラーディス…………」
ザーシュ「こ、こいつ…………ん?」
ルーラ「え?」
ザーシュ「こいつ寝てるぞ!」
ラーディス「ガハハハハハハハ! 遅い、遅い!! あんまり待ちくたびれたんで寝ちまったぜ」
ザーシュ「殺しても死なない奴だと思っていたよ」
ルーラ「まさにバケモノね」
ラーディス「おいおい、同僚に向かって、バケモノはないだろ、バケモノは……」
ルーラ「一緒にしないでよ!」
フェルナスを失った光軍は、もはや何の抵抗力も残されていない。
こうして、この島はダルディークの手に落ちたのだった。
ダルディーク「見ろこの島を……何と小さな島なことか」
ダルディーク「こんなもので満足する私ではないぞ」
ザーシュ「世界……ですね、ダルディーク様」
ダルディーク「そうだ」
ダルディーク「この手に、世界をこの手に入れるまで、私の戦いは終わらない」
ダルディーク「決してな…………」